よつじ歯科医院ニュースレターNO44 2017年3月号巻頭記事です。
今年1月のいきなりステーキ池袋店での話です。そこは、立ち食いではなく座って食べられるお店でした。横5席の細いテーブル席で椅子に座ると正面に背の低い20cmほどの衝立があり、その向こうにまた席があります。本来の立ち食いスタイルに椅子が付いた形式です。フィレ200グラム(レア)とビールがその日の昼食です。行かれた方はご存知でしょうが、肉切場兼注文受付カウンターへ行き、そこで肉の種類とグラム数を注文すると、肉の塊を見せてこの肉でいいか聞いてから肉を希望グラムだけ切ります。私の前に並んだおじさんは、サーロインを頼んで、切った肉の脂身を指さし、この辺りもう少し脂身を落としてくれと注文していました。いかにも通というか常連みたいな感じです。脂身もう少し落としてくれという注文があったのですね。知りませんでした。
私が注文する番が回ってきました。フィレを200グラム、焼き方はレアで注文すると、切り分けた肉が200グラムを少しオーバーしていました。それでいいか聞かれたので、それを頂くことにしました。
席に戻って注文を待ちつつ頼んだビールがすぐに届いたので、それを飲みつつステーキが届くのを待ちました。私の左隣の席に先客で50歳台後半と思しきご夫婦が座られており、そこへステーキが届きました。届いたステーキを脇目に見ると400グラムはありそうなアンガス牛ステーキです。このおばさん小柄で食が細そうです。こんなに食べられるのかな?と食べる人間と肉の大きさがミスマッチで不安になります。おばさんはステーキをすべて小さく切り刻んで刻み終わってから一口ずつ食べていました。今思うと歯がなかったのだと思います。
普段肉を食べなれていないと推測される、そのおばさんは案の定、半分残しました。
先日、FB(フェースブック)で食肉に関する警戒を呼び掛ける投稿に出会いました。
投稿された写真にはまな板の上で大きな肉の塊を切った切り口から溶けかかたクリームチーズのような少し緑が買った乳白色の膿があふれている写真です。一見すると何の写真なのかわかりませんが説明の文を読んで理解できるそんな写真です。
投稿文には次のように書いてありました。食肉加工業者の話によると解体された家畜はその体内に腫瘍や膿の塊がところどころにあるそうです。それを解体中に誤って切ってしまい、膿のついた部分をよく洗い薬品処理して出荷されるそうです。更にソーセージを製造している業者の話だと工場での実態はひどいものだ。そして投稿は「人間は野菜だけでも生きていける」と結んでありました。
私には肉食に対する嫌悪、行き過ぎた潔癖症と思えました。
何故なら免疫学の世界的権威である医師によると人間はある程度の年齢に達すると癌がどこかにいくつかあるもので、それが転移せず、大きくもならず、消えて別の部位に出現するそうです。その話は真実だと思います。学生時代、系統解剖の授業で人体解剖をやりました。6体のうち2体は癌と思しきものが見つかりました。それも一体につき複数個所です。
ソーセージ工場が酷いと書いてありましたが、どこが酷いのでしょうか?日本人は魚を余すところなく食べます。同様に白人は一頭の家畜を解体すると余すところなく利用しています。解体の過程で腫瘍、膿疱を誤って切ったところで、洗えば済む話です。はるか昔から皮、骨、血、内臓、無駄にせず、全て使っています。
読み終えて、ふと思い出しました。
かつて『僕が菜食をやめた理由』というブログを読んだ覚えがあります。そこでもう一度そのブログを読み直してみました。
そこには、ある菜食主義者(Nさんとしておきます)が完全菜食主義を10年間貫きその間悩まされた体調不良と、辞めるきっかけ、回復していく過程と、完全菜食主義者であった懺悔が書かれてあります。
完全菜食杉者をビーガンと呼ぶそうです。ビーガンは肉を決して食べず完全無農薬、有機栽培の玄米、野菜、根菜、を食べ、タンパク質を豆類からとります。調味料も無添加古式製造の高級品を使います。
Nさんは体に良いと信じて完全菜食のライフスタイルを貫いていたのですが、ずっと健康だと自覚できませんでした。以下の症状に悩まされていました。
低血糖で倒れること数回。食べてもすぐに空腹感が起きる、やたら怒りっぽかった、根気が続かない、風邪をひきやすく引くとなかなか治らない、汗がくさくなった、アレルギーがでた、虫歯が増えた、肌のかさつき、その他いろいろ書いてあります。
Nさんは完全菜食主義が体に良いと信じながらも、他のビーガンを観察するに自分たちと同じように不健康な方が多いのが分かり、不思議に思っていました。でもそれは自分のやり方が悪いのだと思っていました。
それがある歯科医のFB投稿を読んで変わったそうです。その歯科医の投稿では人類700万年の歴史から見て肉食の歴史が長く炭水化物を大量に摂取するようになったのはこの1万年での話であり人間は炭水化物の多量摂取に向いておらず大量摂取することで様々な病気が様々出現したと説明してあります。その話に触発されNさんは調べました。
調べて、自分を長い間悩ませた体調不良は栄養失調と、炭水化物の多量摂取だとわかりました。
そして完全菜食主義をやめました。
Nさんに限らず、多くの方が完全菜食主義(糖質の多量摂取)の誤りを栄養学的、人類史の観点から説明しています。
人類は進化の過程で脳を発達させるのに豊富な栄養とエネルギーが必要でした。必須アミノ酸の9種は肉食でないと摂取できません。脳を構成している50パーセントが脂質ですがその3分の1がアラキドン酸、とドコサヘキサン酸の多価不飽和脂肪酸でこれは植物からはほんのわずかしか摂取できません。動物から効率よく摂取できます。人間に一番近いチンパンジーも肉食をしています。
人類は進化の過程で必死に食料を探したのであり、石器を使うようになってから肉の摂取量が増えるだけでなく、より豊富な栄養を動物の脳、脊髄から摂取可能になったのです。それに伴い脳を発達させていったのです。
Nさんは10年間とても熱心な菜食主義者でした。菜食主義になるきっかけがある思想にハマったからだと言っています。それは簡単にところどころ省略して言うと、以下のようになります。現代の畜産が自然破壊を大きくしている、牛の食べる牧草を確保するために森林破壊が起きている、現代の畜舎で肥育される家畜の肉は不健康であり、動物と家畜の関係がフェアじゃない、現代の食品は添加物が多く危険である、菜食だけで健康でいられるという思想です。(実際はもっと複雑な思想です)
少しでも自然破壊と現代の資本主義に反対し自分たちで抵抗していこうとするなら菜食主義を貫こう、少しでもその抵抗を広げられたら、との思いから菜食主義の自然食品の販売店と菜食主義の料理店を経営していました。
(この人すごくいい人だと思います。本当に善人です。)
肉食に戻って、今まで誤った知識を10年間信じて、それを長い間お客に提供していたとの、痛恨な反省がベースにある文章は平易でありながら迫力のある文章で、読む者に切り込んできます。
体調不良の原因が自分のやり方が悪いのではないかと、解決の糸口を菜食主義者の情報に求めたことを反省しています。信じている主義主張の矛盾点の弁明をその主義主張に求めるといった、無限のループに陥ったわけです。
菜食主義を選べるのは人類が豊かな食生活を得ることができたからですね。何を食べるか選べる段階に到達したのです 。700万年前に人類は共通の祖先からチンパンジーと人類は分化しました。その頃は食べるのに必死で食べられるものは何でも食べたはずです。人類学者は飢えのため肉食獣の食べ残しである動物の死骸を食べることから肉食を覚えたと推測しています。そうすると当然飢えが緊迫すると腐りかけたもの、食品添加物まみれの現代の危険なものと同等かそれ以上の危険なものも食べていたはずです。菜食主義を選択できるようになったのは人類の長い歴史を振り返るとほんの最近のことです。
冬の間、我が家の小さな前庭で野鳥に餌を与えました。スズメ、シジュウカラ、ヒヨドリ、ツグミが飛来していました。落花生を針金で刺し数珠状にしたものを木の枝に吊るすとスズメが食べていました。しかしこれは作るのが大変なのである時、糠を撒いてみました。これをスズメが食べます。雪が積もって埋もれても雪が融けて現れた古い糠をスズメは啄んでいました。おなか壊さないか心配なものでも食べるのです。自然は厳しいですね。
これからも私は好き嫌いなく、本能が危険と教えるもの以外は残さず何でも食べます。
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